RESEARCH NOTE — 2026
ストレッチ後、
可動域が広がった。
それは本当の変化?
施術前は45度。
施術後は50度。
この5度の違いを、
身体が変わった証拠と考えてよいのでしょうか。
関節可動域の測定には、
身体そのものの変化だけでなく、
測定姿勢・測定者・測定機器などによる
ばらつきが含まれます。
本記事では、可動域測定の信頼性、
測定誤差、最小検出変化(MDC)を
研究から整理します。
数字が変わったことと、
身体が変わったことは、
同じではありません。
ストレッチやボディケアの前後に、 前屈や肩の挙上、股関節の動きなどを 確認することがあります。
例えば、股関節の可動域が 45度から50度へ変わったとします。
施術前
施術後
数値上は5度の増加です。 しかし、測定する人や姿勢が変われば、 身体に実質的な変化がなくても 測定値が変動する可能性があります。
変化を評価するには、
「何度変わったか」だけでなく、
「どのくらい正確に測れたか」も必要です。
可動域を評価する、
3つの重要な概念。
研究では、測定結果を解釈するために 複数の統計的な指標が使われます。 特に区別したいのが次の3つです。
信頼性
Reliability
同じ対象を繰り返し測定したとき、 結果がどの程度一貫しているかを 表す概念です。
同じ人が測る場合と、 異なる人が測る場合では、 信頼性が異なることがあります。
測定誤差
Measurement Error
測定結果に含まれるばらつきです。
関節の位置、測定器具の当て方、 力の加え方、本人の力みなどが 測定結果へ影響する可能性があります。
最小検出変化
Minimal Detectable Change
測定誤差を考慮したうえで、 その誤差を超えた変化と判断するための 閾値です。
MDC95は一般に、 95%の信頼水準で 測定誤差を超える変化を表します。
信頼性が高い測定方法でも、 個人の数度の変化を正確に 判定できるとは限りません。 ICCなどの相対的な信頼性と、 MDCなどの絶対的な誤差指標は 分けて考える必要があります。
研究では、
どの程度の誤差が
報告されているのか。
可動域測定の信頼性は、 測定する関節、対象者、機器、 測定者によって異なります。
同じ膝の測定でも、 条件によって検出可能な変化量は異なる。
Pantouverisらは2024年、 前十字靱帯損傷または再建術後の 92人を対象に、 膝伸展可動域の測定方法を比較しました。
ゴニオメーター、傾斜計、 スマートフォンアプリを用いた測定では、 測定条件によって MDC95に違いが報告されました。
研究で報告された各条件・機器における MDC95の範囲です。 すべての関節や健常者に 適用できる基準値ではありません。
ORIGINAL RESEARCH — PubMed ↗頸部の可動域測定
健常成人18人を対象とした研究では、 デジタルゴニオメーターによる 頸部可動域測定のMDCが、 動作によって3〜8度と報告されました。
これは頸部の特定の測定条件における 結果であり、 すべての首の測定に使える 一律の基準ではありません。
研究を見る ↗下肢可動域測定のシステマティックレビュー
12研究を対象としたレビューでは、 ゴニオメーター、写真測定、 スマートフォンアプリによる 下肢可動域測定の信頼性を比較しました。
ICCは測定方法によって幅があり、 ゴニオメーターでは0.18〜0.99、 写真測定では0.78〜1.00、 スマートフォンでは0.33〜0.98でした。
ただし、測定対象や研究条件が異なるため、 この範囲だけで機器の優劣を 一律に決めることはできません。
研究を見る ↗スマートフォン測定の信頼性
25研究を対象としたレビューでは、 スマートフォンアプリによる 可動域測定の信頼性と妥当性が 検討されました。
多くの測定で一定の信頼性が 報告された一方、 絶対的な測定誤差に関する エビデンスには限界がありました。
研究を見る ↗
5度変わった。
それだけでは、
結論を出せない。
例えば、施術前後で 股関節の可動域が5度増えたとします。
このとき、測定方法におけるMDC95が 3度であれば、5度の変化は その測定誤差の閾値を超えています。
一方、MDC95が8度であれば、 5度の変化だけでは 測定誤差を超えたと判断できません。
誤差の閾値を超える
測定条件が適切であれば、 測定誤差を超えた変化と 解釈する根拠になります。
誤差の閾値を超えない
数値は変化していますが、 その差が測定誤差を超えたとは 判断できません。
上記はMDCの考え方を説明するための仮想例です。 股関節に対する実測のMDC基準を示したものではありません。
測定誤差を超えた変化と、
本人にとって意味のある変化も、
同じではありません。
MDCは測定誤差を超えたかどうかを 判断するための指標です。
その変化が日常生活で重要なのか、 痛みや動作に意味のある改善なのかは、 別の評価が必要です。
このような「本人にとって意味のある変化」を 考える際には、 最小重要変化量(MIC)や 最小臨床的重要差(MCID)などの 概念も用いられます。
施術前後の変化を、
どう確認すればいい?
研究室と施術現場では、 使用できる測定機器や時間が異なります。
それでも、比較条件をそろえることで、 変化をより慎重に確認することはできます。
同じ姿勢で測る
立位と座位、骨盤の位置、 膝の曲げ方などが変わると、 測定される可動域も変わる可能性があります。
施術前後で同じ姿勢・条件を 再現することが基本です。
同じ方法で確認する
自分で動かす可動域と、 他者が動かす可動域は異なります。
測定機器や力の加え方も含め、 比較する条件をできるだけそろえます。
本人の感覚も聞く
動かしやすさ、張りを感じる場所、 詰まり感、違和感など、 数値だけでは表せない情報もあります。
ただし、本人の感覚と 客観的な測定結果は区別して扱います。
同じ動作をもう一度確認する
腕を上げる、身体をひねる、 股関節を動かすなど、 最初に確認した動作を再度行います。
その場での変化だけでなく、 必要に応じて次回来店時の状態も 確認していきます。
数字を大きくするために測るのではない。
今の身体を理解するために測る。
変化を伝える。
でも、
決めつけない。
ESSENTIAL STRETCH LABでは、 理学療法士・トレーナーの視点を取り入れ、 姿勢・関節・身体の動きなどを 確認しながら施術を考えています。
施術中に身体の感覚を確認し、 必要に応じて同じ動作を もう一度行います。
その場で動きが変わったとしても、 それだけで筋肉の構造が変化した、 問題の原因が解決したと 決めつけることはしません。
一度の施術だけでなく、 前回からの変化や日常生活も確認しながら、 身体について継続的に相談できる 「身体のコンサルタント」であることを 大切にしています。
ESLのパーソナルストレッチについて →
よくある疑問。
ストレッチ後に5度可動域が広がったら、 効果があったと言えますか?
測定値として5度増加したことは確認できます。 ただし、それが測定誤差を超えた変化かどうかは、 測定方法の信頼性やMDCなどを考慮する必要があります。
スマートフォンで可動域を測定しても 信頼できますか?
研究では、スマートフォンアプリによる 可動域測定に一定の信頼性が報告されています。 ただし、測定部位、アプリ、 使用方法によって結果は異なります。 すべてのアプリが同じ精度を持つわけではありません。
施術前後で動きやすく感じた場合も、 測定誤差なのでしょうか?
動きやすさの感覚と角度の測定誤差は 別のものです。 本人が感じた変化には意味がありますが、 それだけで関節可動域や組織の状態が 客観的に変化したとは判断できません。
可動域は大きいほど良いのでしょうか?
必ずしもそうではありません。 日常生活や運動で必要な範囲を、 無理なく使えることが大切です。 可動域だけでなく、筋力や動作の制御、 本人の感覚なども関係します。
参考文献と、
研究の読み方。
- Pantouveris M, et al. (2024). Inclinometers and Apps Are Better than Goniometers, Measuring Knee Extension Range of Motion in Anterior Cruciate Ligament Patients: Reliability and Minimal Detectable Change for the Three Devices. PubMed ↗
- Psychometric Properties of a Digital Goniometer in Upper and Lower Cervical Range of Motion Measurement (2024). PubMed ↗
- Canever JB, et al. (2025). Reliability of range of motion measurements obtained by goniometry, photogrammetry and smartphone applications in lower limb: A systematic review. PubMed ↗
- Reliability and validity of clinically accessible smartphone applications to measure joint range of motion: A systematic review (2019). PubMed ↗
この記事の編集方針
本記事はESSENTIAL STRETCH LABの編集記事です。 公開された研究をもとに、 関節可動域測定の信頼性と 測定誤差について整理しています。
引用研究の対象者には、 健常成人や特定の外傷歴がある方が含まれます。 研究結果をESLの施術効果や 独自の測定精度として 主張するものではありません。
また、施術現場での考え方と、 研究によって直接確認された結果を 区別して記載しています。
山岸 慎
創業者・経営者・技術監修: 山岸慎|STUDIO KOMPAS創業者・NSCA-CSCS
ESSENTIAL STRETCH LABの創業者として、 ストレッチプログラムと施術設計の 技術監修を担当。
STUDIO KOMPASでの パーソナルトレーニング指導を背景に、 姿勢・関節可動域・身体の動作などの 専門知識をESLの施術方針へ反映しています。
本記事は身体の動きやストレッチに関する 一般的な情報提供を目的としています。 ESLは医療機関ではなく、 診断・治療を行うものではありません。 強い痛み、しびれ、外傷後の症状、 急な筋力低下などがある場合は、 医療機関へご相談ください。
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